INTERVIEW

インタビュー

2025.05.07

VALUE〜「ハレの日」の文化を未来につなぐ、老舗染物店の挑戦〜

和歌山県御坊市にある「そめみち染物旗店」は、地域の祭礼を中心とした染物を手がける老舗染物店です。代表の染道祥博さんは、1948年創業の家業を受け継ぎ、「ハレの日」を彩るものづくりを続けながら、今の時代に合った新しい在り方を模索しています。オペレーションの改善や人材活用など、漠然とした課題意識を抱えていたなか、偶然出会ったVALUEというプログラムでの学びを通して、自社ブランドの立ち上げや社内意識の変化に至るまでの取り組みについてお話を伺いました。

――― まずは会社の概要と、ご自身のお仕事について教えていただけますか?

染道祥博さん:和歌山県御坊市にある「そめみち染物旗店」で代表を務めております、染道祥博です。業務としては、御坊市日高郡一帯の祭礼関係の染物を中心に手がけていまして、のれんやTシャツ、法被など、繊維・染色関係の加工全般を行っています。 

――― お祭りや節句など、地域に根ざしたものづくりをされているんですね。 

染道祥博さん:そうですね。いわゆる「ハレの日」に関わるアイテムを作っているという感覚があります。家業として77年続いてきた染物業を受け継ぎ、今の時代にどう合わせていくかというのが、日々の課題でもあります。 

何気なく足を運んだ講演会が、参加のきっかけに

――― VALUEに参加されたきっかけや、その当時の状況について教えてください。 

染道祥博さん:きっかけは、中川政七商店の中川淳さんの基調講演を聞きに行こうと思ったことです。正直に言うと、最初は講演だけ聞いて帰るつもりだったんです。VALUEというプログラム自体もまったく知らなかったですし、オペレーション関連の悩みはあったものの、参加するつもりはありませんでした。 

――― それが実際に参加へとつながったのは、どんな経緯だったんでしょうか? 

染道祥博さん:中川さんの講演のあとに、第2期の参加者の発表を聞いて感銘を受けました。「こんなに真剣に取り組んでる人たちがいるんだ」と。それで「自分も何かのきっかけになるかもしれない」と思い、長丁場だけどチャレンジしてみようと決意しました。当時の社内には特に明確な課題意識はなかったのですが、注文量が増える中でどう改善するか、人をどう入れるか、ということを漠然と考えていた程度でした。 

VALUE2024キックオフイベント過去参加者パネルトーク

「顧客の姿を想像する」という視点の変化

――― VALUEの中で印象に残っているワークや気づきはありましたか? 

染道祥博さん:ペルソナ設定のワークが特に印象に残っています。顧客像を細かく描いて、家族構成や行動傾向を想像しながら深掘りしていく作業は、初めての経験でした。正直、頭を悩ませる場面も多かったですが、「こんなふうに事業を見るのか」と新鮮で、面白さも感じました。 

――― ご自身や社内の意識にも変化があったのでは? 

染道祥博さん:はい。私はほぼひとりで参加していたので、社内には「なんかやってるらしい」くらいの認識しかなかったと思います。VALUEのホームページをプリントアウトして渡すくらいしかできず、正直、説明もうまくできていませんでした。でも他の参加者や支援者の熱量に触れて、自分も何とか食らいついていこうという気持ちになりました。経営やブランディングの視点も、これまでまったくなかったので、全てが新鮮でした。普段交わらないような方々の視点を知れたことは、何よりの財産です。  

「注文を受けて作る」から、「自ら価値を届ける」へ

――― 実践フェーズではどのような取り組みをされたのですか? 

染道祥博さん:VALUEの中では「HARENO」という新ブランドを立ち上げました。最初は何をすればいいか全く分からず、支援者やアドバイザーの皆さんからたくさんアドバイスをいただいて。今まで私たちは「注文を受けて作る」しかしてこなかったので、自発的に何かを作るという視点がほとんどありませんでした。でも、これまで手がけてきたものを振り返ると、祭りや節句など、「ハレの日」に関する染物が多いと気付いたんです。 

――― ブランドづくりに対する社内の反応はどうでしたか? 

染道祥博さん:ブランドブックを作って社員に見せたときは、私の言葉足らずもあって、「へえ、そうなんだ」くらいの反応でした。これまで私がトップダウンで指示を出していたので、突然始めたことに戸惑いもあったと思います。ただ、支援者の和田さんが女性スタッフたちと個別に話してくれたことで、彼女たちの思いを私もちゃんと知ることができました。それがきっかけで、ミーティングの内容も「今日の作業」だけでなく、「どう思っているか」「どこに課題を感じているか」などを聞く時間に変えていきました。

「やらないこと」を決めて、「やりがいのあること」に集中する

――― HARENOの今後の展開や、今後取り組んでいきたいことを教えてください。 

染道祥博さん:まずは、HARENOを3〜5年かけてじっくり育てていきたいと考えています。元々はBtoC中心の商売でしたが、HARENOではリゾートホテルなど、BtoBの商談先とも関係を築きながら、館内装飾や室内演出などに展開していけたらと。そこからまた宿泊客が商品を手に取るBtoCの流れに繋がっていけば理想ですね。 

――― 中長期の目標についてはどうお考えですか? 

染道祥博さん:やりたいことはたくさんありますが、スタッフ数も限られているので、「やらないこと」を決めて、やりがいのあることに集中したいです。インナーブランディングの観点も今後大切にしていきたいですね。今は支援者の和田さんとも継続してお付き合いさせていただいていて、スタッフも「和田さんと話すのが心地いい」と言ってくれています。今後も内と外の両輪で進めていきたいと思っています。 

インタビュイー

そめみち染物旗店
代表 染道祥博(そめみち よしひろ)
高校卒業後、服飾専門学校へ卒業後家業に入店し、25年以上染物業に従事。

和歌山県御坊市で創業し、1948年より約80年三代続く老舗家業である。先々代が戦後、京都で修行後、御坊市にて呉服屋の下請け染物屋として創業し、その後小売り店舗をもった形に。様々な技法を駆使し、地域の旗・幟・祭禮用品と染製品を制作し続け要望に応え続けてきた。なかでも、日高郡内、祭禮関係の製品に関する地域での認知度は各地区青年団や各町会単位に留まらず、個人のお客様からの引合いも非常に高い。