INTERVIEW

インタビュー

2025.05.14

VALUE〜「寄り添う」から生まれた、新たなブランド〜

有限会社オランジェは、和歌山県で縫製工場を営み、ハイブランド製品のOEMを手がけてきた高い技術力を持つ会社です。代表の西田晴美さんは、社員の橋口麻理さんたちとともに、日々の業務を担いながら、「技術はある、でもそれが伝わらない」という発信面での課題を感じていました。価値を可視化し、社内外に伝えていくための道を模索する中で参加したVALUE。その取り組みを通じて生まれた新たなブランドと、そこに込めた想いについてお話を伺いました。

――― まずは会社の概要と、お二人の役割について教えてください。 

西田晴美さん:有限会社オランジェで代表取締役を務めております、西田晴美と申します。当社は和歌山県で縫製工場を営んでおりまして、OEMでハイブランドの製品づくりを行っています。また、最近では個人のお客様から「洋服を作りたい」というご相談を受けて、少ロットでの製作もお手伝いさせていただいています。私は会社全体の管理から経理、営業まで、すべての業務を担っています。 

橋口麻理さん:私は主にパソコンを使った業務を担当しており、生産管理を中心に行っています。具体的には、お客様からの受注受付、必要な付属品のチェック、生地やパターンの手配など、生産工程がスムーズに進むよう調整する役割です。 

「技術はある」でも「伝わらない」―発信の壁に向き合う

――― VALUEに参加されたきっかけと、当時の課題感について教えてください。 

西田晴美さん:きっかけは東京ギフトショーに出展したいという思いから、よろず支援さんに相談に行ったことでした。そのとき、ブランド名こそあるものの中身が伴っていないと感じていて、紹介されたのがVALUEでした。ちょうど中川政七商店の中川さんの講義もあると聞いて、参加してみようと思ったのが最初のきっかけです。 

――― 参加時に感じていた課題はどのようなものでしたか? 

西田晴美さん:経営学もデザイン経営も学んでいない私でしたが、直感的に「これは学ばないといけない」と感じました。私たちは縫製技術には自信があるけれど、それをどう形にするか分かりませんでした。安定した売上や事業継承も考えなければいけないタイミングでしたし、「何から手をつければいいか分からない」という状態でした。 

橋口麻理さん:私も最初に「参加するよ」と言われたときは、「仕事が忙しいのにどうするのだろう?」と思っていました。でも実際に参加して、いろんな業種の方とお話しすることで、視野が広がったと感じています。

外からの視点が教えてくれた「私たちの強み」

――― VALUEでのワークを通じて印象に残ったことや学びはありましたか? 

西田晴美さん:たくさんありすぎて一つに絞るのが難しいのですが、異業種の方とのコミュニケーションから得られる学びがとても大きかったです。特に、支援者の長命さんが作ってくれた曼荼羅チャートが印象的でした。そこに出てきたキーワードが、まさに自分たちの思いや考えと一致していて、「やっぱりこれでいいんだ」と自信にもなりました。 

――― 自分たちでは当たり前と思っていたことが強みだったという気づきもあったそうですね。 

橋口麻理さん:そうなんです。ワークの中で「自社の強みは何ですか?」と聞かれても、すっと答えが出てこなくて。でも、他の人から「それが強みだよ」と言われて、「あ、そうなのか」と気づくことが何度もありました。そういう意味で、視点の変化が一番大きかったです。 

――― 社内の雰囲気やチームの変化もあったのではないですか? 

西田晴美さん:最初は社内でも「何やってるの?」という反応でしたが、話を共有するうちに少しずつ理解が得られて、他の社員も巻き込んで5人くらいのチームができていきました。社内の空気も明るくなって、チームワークが生まれてきた実感があります。   

試行錯誤の先に見えた、「寄り添う」という答え

――― 伴走支援期間では、どのような取り組みを行ったのでしょうか? 

西田晴美さん:大きくは、新ブランドの立ち上げと人材育成です。特に、私たちの強みであるフラットシーマーという技術を活かした製品を作ることに挑戦しました。実際に地方でのインタビューやモニターアンケートなども行い、「人にも肌にも、洋服にも寄り添うものを作る」という方向性が明確になっていきました。 

ユニオンスペシャル社フラットシーマー

――― 具体的にはどのような商品を想定されたのでしょうか? 

橋口麻理さん:最初はTシャツと肌着のどちらにするかでかなり悩みました。でも話し合いを重ねるなかで、「やっぱり一番肌に近いものだから肌着が良い」という結論に至りました。そこからも、ネーミングや仕様設計を何度も議論して、「yori sew(寄り添う)」という名前に決まりました。 

――― 社内の反応はいかがでしたか? 

西田晴美さん:比較的スムーズでした。レギンスやホームウェアなど、その先の展開までイメージして共有したことで、「なるほど」と納得してもらえたように感じています。

ブランドを超えて、和歌山から広がるメリヤス業界の未来へ

――― 現在の取り組みや、今後の展望について教えてください。 

西田晴美さん:まずは今回つくった新ブランドをしっかり育てていくことが第一です。「寄り添う」というキーワードを軸に、敏感肌の方にも安心して着てもらえるよう、天然の草木染での染色も取り入れながら製品化を進めていきたいです。肌着からレギンスや長袖、ホームウェアへとラインナップを広げていく構想を描いています。 

――― ブランドを軸とした展開を考えていらっしゃるんですね。 

西田晴美さん:はい。そして長期的には、岡山のデニムストリートのように、和歌山でも「Tシャツストリート」ができるような取り組みができたらいいなと思っています。地場産業である和歌山のメリヤス業界を盛り上げていくためにも、オランジェが見本となれるよう、精進していきたいと考えています。

インタビュイー

有限会社オランジェ
(右から)生産管理マネージャー:橋口麻理、代表取締役:西田晴美、ミライテソーイングスクール講師/2級婦人子供服製造技能士:中嶋千珠

50年以上続く歴史ある縫製工場です。昭和45年に玉岡ニットとしてスタートし、平成30年11月に現社屋へ移転。令和元年5月1日に、前代表から受け、当時パートとして在籍していた西田が代表取締役となり、有限会社オランジェに社名変更しました。また、令和4年9月に工業用ミシンで洋服作りが学べる「ミライテソーイングスクール」を開講。”古き良き技術を現在の手で未来に紡ぐ”為にわくわく楽しい縫製工場を目指して奮闘中です。