吉田染工株式会社は、長年にわたってニット用途を中心に糸の染色を手がけてきた老舗企業です。近年では、糸の染色にとどまらず、自社製品の企画・製造にも力を入れはじめ、製品部門を中心とした新たな挑戦が進められています。今回のVALUEでは、経営者と現場スタッフがチームを組み、製品づくりを「社内全体の力」に育てていくための取り組みに挑戦。ターゲットの再定義や工場開放イベントなどを通じて、デザイン経営の視点から新しい社内外のつながりを模索したプロセスについて、お話を伺いました。

――― まずは、会社の概要と皆さんのお仕事について教えてください。
吉田篤生さん:吉田染工株式会社の代表取締役を務めております。弊社はニット用の糸の染色を主な事業としておりましたが、ここ10年ほどでその糸を使った製品製造にも取り組むようになりました。今回は、その製品製造部門のメンバーでVALUEに参加させていただきました。
宮澤直博さん:私はアクティブグループに所属しており、営業から製造、納品までを一貫して担当しています。現場の流れを把握しながら、お客様とのやり取りを行っていく立場です。
吉田杏さん:私もアクティブグループで、ニット製品の製造に関する業務を担当しています。
――― 製品づくりに携わる皆さんでチームを組まれているのですね。
吉田篤生さん:はい。現場から経営まで、今回のVALUEには多様な視点から取り組めるよう意識しました。
現場の手ざわりを、会社全体の力へとつなぐために
――― VALUEへの参加を決めたきっかけと、その当時の課題について教えてください。
吉田篤生さん:和歌山県の支援事業を受けていた際に、県の担当者から「VALUEという取り組みがありますよ」と教えていただいたのがきっかけでした。その内容を見たときに、ちょうど製品部門の活動をどう社内全体に広げていくか悩んでいたこともあり、参加を決意しました。
――― 製品部門の拡大がひとつのテーマだったのですね。
吉田篤生さん:はい。製品づくり自体は形になってきたのですが、それを担っているのが一部の社員に限られていて、社内全体の力として活かしきれていないのでは?という疑念がありました。製品チームの話を聞くと、私と同じような悩みを持っていて。会社全体で共有する意識をどう育てていけるか、それをデザイン経営の視点から解決できればと考えました。

「届けたい相手」を絞ることで、進むべき道が見えてきた
――― VALUEでのワークや支援の中で印象に残っている学びは何でしたか?
吉田篤生さん:ターゲット設定のワークで、「対象を絞る」ことの重要性に気づかされました。これまで私は「より多くの人に届けたい」という思いから、対象を広げていく発想ばかりしていました。でもペルソナ設計を通して、ターゲットを絞ることでより具体的なアプローチができることに気づきました。
宮澤直博さん:私は、他業種との交流を通して、自分たちの業界だけでは気づけない視点に多く出会えたことが大きかったです。食品業界やデザイン業界など、全く違う背景を持つ方と話す中で、これまで見えていなかった課題や可能性に気づくことができました。
吉田杏さん:私は、外部からフィードバックをもらうことの価値を実感しました。自分たちの仕事を客観視することが難しい中で、他の参加者や支援者の視点はとても新鮮でした。参加していなければ、自分が抱いていた「こうしたい」という思いを行動に移す時間もなかったと思います。VALUEがその時間をつくってくれたと感じています。

工場を開き、心もひらかれていく
――― 実践フェーズでは、どのような取り組みにチャレンジされたのでしょうか?
吉田杏さん:私たちは「オープンファクトリー」を実施しました。自社工場を一般のお客様に開放して、実際の作業を見学してもらうイベントです。ターゲットとして設定した若手・新鋭のデザイナーや、オーダーニットに関心のある一般の方々にアプローチするための試みでした。
――― 工場を開放するというのは、かなり大きな一歩ですね。
吉田杏さん:そうですね。最初は社員の温度感に差があるのではと心配もありました。ただ、直前に別の社外イベントに参加した社員が「お客様と接することの喜び」を感じてくれたことで、意識が変わったと感じています。反省会でも「もっとこうできた」という意見が出て、これから改善していこうという前向きな姿勢が見えました。
吉田篤生さん:社内全体を巻き込むという点では課題も残りましたが、今後この点を改善していくためにも、デザイン経営の活用法を考えていきたいと思います。

開かれた工場から始まる、新たなつながりと発信のかたち
――― 現在の取り組み状況と、今後の展望について教えてください。
吉田杏さん:オープンファクトリーについては、継続的に実施することが決まっています。すでに年間スケジュールも組んでおり、5月には第2回目を開催予定です。前回の実施後にアンケートを取ったところ、いくつかの改善点が見えましたので、今後はトライ&エラーを繰り返して、より良い形にしていきたいと思っています。
――― ペルソナとして挙げた若手デザイナーへのアプローチも今後の課題ですね。
吉田杏さん:はい。特に「若手デザイナーにどう知ってもらうか」「SOMEKARAという自社商品をどう届けるか」など、商品やブランドを通じての発信にも力を入れていきたいです。社員の一体感を高めつつ、社外への発信力も磨いていく必要があると考えています。
インタビュイー

吉田染工株式会社
私たちは、和歌山県紀の川市貴志川町にある染色工場です。1948年創業以来、糸の染色・加工を行っています。培ってきた染色・加工技術を具体的な形で提案を行う為、2014年に横編み機を導入し、ニット製品・編み地開発の挑戦を始めました。現在はこれまでのOEM事業に加え、一般の方にも購入していただけるSOMEKARAというオーダーニットサービスの提供など、事業を拡大しています。染色加工業から自社製品の取り組みへ、一気通貫のものづくりを進め、更なる繊維業界の発展を担う存在を目指しています。