池田農園株式会社は、和歌山県でみかんや柑橘類の栽培から加工・販売までを一貫して行う企業です。代表の池田義行さんは、ECを中心に販路を広げる一方で、差別化やブランドのあり方に課題を感じていました。「自分たちは、どんな価値を届けたいのか」、その問いに向き合ったことが、新たな販路開拓や社内の意識変化へとつながります。今回の取り組みを通じて見えてきた、ブランドづくりとチームの変化についてお話を伺いました。

――― まずは会社の概要と、ご自身の役割について教えていただけますか?
池田義行さん:池田農園株式会社の代表取締役をしております、池田義行と申します。弊社は和歌山県でみかんや柑橘類の栽培、仕入れ、加工、販売を一貫して行っている会社です。直販ECを中心に、農家としてだけでなく商流の部分にも力を入れてきました。ただ、組織としては小規模で、商品管理やオペレーションの部分に課題が多かったというのが、VALUE参加以前の状況です。
ぽっかり空いた時間が導いた新たな挑戦
――― VALUEに参加されたきっかけや背景について教えていただけますか?
池田義行さん:たしか3月か4月ごろに、和歌山県かよろず支援拠点の方からVALUEの情報をいただいて、それで知りました。その少し前に、ダンボール箱のデザインを刷新したいなと思っていたんです。「デザイン経営」という言葉に惹かれたのと、前年まで農業経営塾に通っていたのが終わったばかりで、少しぽっかり時間が空いたというのもありました。農業経営塾が終わった寂しさもあって、VALUEに参加してみようと思いました。
――― 社内に課題感もお持ちだったのでしょうか?
池田義行さん:そうですね。日々のオペレーションが複雑化していて、商品点数も多く、出荷業務がごちゃごちゃしているという問題がありました。EC中心でやってきたものの、差別化やブランディングができていない実感があり、「そろそろちゃんと整えなければ」という思いが強くなっていた時期でした。

経営に「軸」を通す、言語化のプロセス
――― ワークショップに参加してみて、どのような学びや気づきがありましたか?
池田義行さん:弊社の「ビジョン」「ミッション」「アイデンティティ」は何なのか、正直まだ今も答えが出ていない部分があります。でも、それを考えるワークの中で、「自分たちの事業の使命とは何か?」という問いを、意識するようになりました。今までは漫然と「売れそうかどうか」「これが流行っているかどうか」といった視点ばかりだったのですが、ペルソナ設計などの考え方を取り入れることで、より一段深く物事を考えるようになりました。
――― 社内メンバーの意識にも変化があったのでしょうか?
池田義行さん:私だけでなく、参加したメンバー全員が「自分たちの会社としての使命」を意識するようになりました。普段は農業関係の人たちとのやり取りが中心なので、デザイナーやビジネスパーソンの方々と関わるのは初めてだったんです。視野の狭さや固定概念に気づかされると同時に、まったく違う角度からの意見に触れることがとても新鮮で、ありがたい機会でした。

「売る場所を変える」という実践が見せた手応え
――― 伴走支援のフェーズでは、どのような取り組みを行われましたか?
池田義行さん:メインは販路開拓です。ECでの販売が中心だったのですが、差別化やブランド化ができていなかったので、これまでとは違う切り口を探していました。最初は高級スーパーへの販路開拓なども考えたんですが、競争が激しそうで…。そこで、食品スーパー以外の店舗にみかんを置いてもらうという新しいアプローチに切り替えました。
――― 実際にやってみて、手応えはいかがでしたか?
池田義行さん:意外とすんなり決まりました。営業に行くと興味を持ってもらえることが多く、すでに2件の販売契約を獲得できました。さらに2件が交渉中です。今は売り場の設計やPOPづくりに取り組んでいる段階です。ただ、「実際に売れるのか」「採算が取れるのか」という部分はこれからの課題です。実行して初めて見えてくる部分があるので、ここからが勝負かなと思っています。

「会社のダイエット」と、次のブランドづくりへ
――― 現在の取り組みや、今後の展望について教えてください。
池田義行さん:まずは、商品点数や段ボールの種類などを整理して、出荷オペレーションをスリム化したいと思っています。現場が煩雑になっていて、作業負担も大きくなっているので、それを改善していきたいですね。いわば「会社のダイエット」をしようと考えています。
――― 中長期的な視点では、どのような展開をお考えですか?
池田義行さん:夏場は出荷も少なくて仕事が落ち着くので、その時期に向けた加工品開発にも力を入れて、通年で仕事がある状態にしたいと考えています。また、ブランディングの観点からも、2〜3年かけて段階的に取り組む必要があると感じています。最初は「段ボール箱を刷新したい」という軽い気持ちでしたが、今は「自分たちが社会に提供できる価値は何か?」を軸に経営を考え直すようになりました。VALUEを通じて、その視点が得られたのは本当に大きかったです。
インタビュイー

池田農園株式会社 池田義行
和歌山県有田郡出身。大学院卒業後、自動車メーカーに入社し、約10年間にわたり設計業務に従事。2009年、Uターンして家業のみかん農家を継ぎ、就農。減農薬栽培に取り組み、生協への出荷を行っていたが、売れ残りの処理に悩み、ネット販売を開始。栽培面積の拡大と並行して、近隣農家からの仕入れも行い、事業を拡大。2019年に法人化。営業・選果・出荷を自社で一貫して担うことで、安定した品質のみかんを適正価格でお届けするとともに、農家の収入向上と高齢化が進む地域農業の持続に貢献していきたいと思っています。