株式会社丸和は、リネンサプライ業を中心に福祉事業やレストラン、ホテルなど多岐にわたる事業を展開しています。その中で保育事業部を担当する辻本実千さんは、職員の育成や保育方針の策定に取り組んでいます。社内での「ビジョンの共有」と「組織としてのまとまり」という課題に向き合う中で、VALUEに参加し、共通言語をつくるプロセスと新たな事業展開の可能性を見出しました。

“現場には属さない”立場から、保育の方針を整えていく
――― まずは会社の概要と、ご自身の担当されているお仕事について教えていただけますか?
辻本実千さん:株式会社丸和で保育事業部に所属しておりまして、会社では役員を務めています。丸和はもともとリネンサプライ業を主軸としていますが、現在は福祉事業やレストラン、ホテル事業など、さまざまな業種に展開しています。その中で私は保育事業部という立場で、職員の育成や保育方針の策定に携わっていて、保育園には直接属していないんです。あくまで事業部全体を見ながら、どういう方向性で保育を進めていくか、どう組織としてまとまっていけるかを考えるポジションになります。
ビジョンの共有と組織の一体感を求めて
――― VALUEへの参加を決めたきっかけや、当時の課題感について教えてください。
辻本実千さん:もともと「ビジョンをつくること」や「デザイン経営」という言葉には関心があったのですが、それを実際の業務にどう落とし込むか、どう職員と共有していくかに悩んでいました。そんなとき、タカショーデジテックの古澤さんがSNSでVALUEの案内を投稿しているのを偶然見かけたんです。ちょうど考えあぐねていたタイミングだったので、「どんなものなんだろう」と気になって参加を決めました。
――― 社内で感じていた課題には、どんなことがありましたか?
辻本実千さん:私自身、「こうしたい」という気持ちはあっても、それを言葉にして伝えるのではなく、「心を動かして行動につなげたい」という考え方をしていたんです。でもその熱量を、全員と共有することの難しさをすごく感じていて…。社員も、会社のビジョンには共感してくれているけど、「じゃあ自分は何をすればいいのか」が見えづらくて、動きが繋がっていないように感じていました。
“人と人”から、“組織として”育てる視点へ
――― VALUEでの学びや気づきについて、印象的だったことはありますか?
辻本実千さん:自分の勉強不足を感じましたね。私はいつもイメージから先に仕事を組み立てるタイプなので、ブランディングやデザインを深く掘り下げて形にしていくプロセスに、こんなにも時間と労力がかかるものだとは思っていませんでした。このプロセスに時間をかけなかったことが、一個前で言っていた社内の状況や悩みにつながっていたのだと気づきました。

――― チームや社内の変化についてはいかがですか?
辻本実千さん:VALUE自体は保育事業部の全員が参加したわけではありませんが、後から「共通言語ができた」と感じる場面がいくつもありました。一緒に参加した園長とは、保育に対する意識の共有も深まりましたし、今まで“人対人”で考えていた視点が、“組織としてどう育てていくか”という視点に変わっていった感覚があります。 メンバーのこうした視点の変化を受けて、自分たちの保育の強みや届け方を整理していく中で、「実際に保護者や子どもと向き合いながら試してみよう」と、玩具のモニター施策に取り組むことになりました。
保育事業を通じた新しい取り組み――親子支援プログラムの実施
――― どのようなプロセスを経てモニター施策に至ったのかを教えていただけますか?
辻本実千さん:まずは、自分たちの保育の強みや特徴が何か、そしてそれを誰に、どんなかたちで届けたいのかといった部分を、伴走者の方と一緒に時間をかけて整理しました。当初は、保育の専門的な視点だけを提供するようなオンライン相談形式がいいのではないかと考えていたのですが、支援者の方からら「今の段階だからこそ、実際にモノをつくって届けることで気づけることがあるのでは」とアドバイスをいただいて。その言葉に背中を押されて、そのうえで実施したのが、未就学児を育てている共働きのご家庭を対象にした「モニター」です。
対象家庭とZoomでつながり、日頃の遊び方や育児の考え方をヒアリング。その上で、その子に合った「遊び方アドバイス」や「発達段階に合わせた遊びの展開」、そして「ママへのメッセージ」を盛り込んだ玩具手帳を一緒にお届けしました。 結果的に、ものづくりと実践を通じて、自分たちのビジョンを具体化することにつながったと思います。

――― 取り組みの意義や気づきはありましたか?
辻本実千さん:ありましたね。親御さんが「こう遊んでほしい」という固定観念を持っていて、子どもの“遊びを通じた発達”を見守る視点が欠けていると気づかされたんです。また、今どの段階にいて、次はどんな成長が期待できるかを示すことで、ポジティブな見通しを持てる支援の重要性を実感しました。これはやってみたからこそ得られた大きな学びでした。
職員と共につくる文化と声を積み重ねていく仕組み
――― 今後の展望や取り組みたいことについて教えてください。
辻本実千さん:一つは、社内で「職員の声を聞く会」を定期的に開催していくことです。今年度は園長と一緒にビジョンやミッション、パーパスを定めて発表しましたが、来年度以降は職員全体の声を聞きながら、共に育てていくような文化をつくっていきたいと思っています。その中で、菊井鋏さんの「ダイアローグノート」がとても良いなと感じたので、私たちも“今の思い”を残して積み上げていくような方法を取り入れていきたいです。

――― 新たな事業展開にもつながっていくのでしょうか?
辻本実千さん:はい。今回のおもちゃ支援の取り組みを踏まえて、学童保育や児童発達支援など新たなサービスの構想も進めています。VALUEで得た“見えない価値にこそ投資すべき”という考え方は、自分の中で確信に変わったように感じています。今後は丸和の管理職研修にもデザイン経営を取り入れていきたいと考えているところです。
インタビュイー

株式会社丸和 保育事業部
辻本実千
1983年生まれ、和歌山県出身。向陽高等学校、文教大学情報学部広報学科卒業。『ヒト×ヒトの化学反応で生まれる無限の可能性を私たちの未来のために』を掲げ、学び合い・繋がり合い・成長し合う循環型コミュニティづくりに取り組む。現在は自営業を営みながら保育園の経営にも関わる。4児の母。