INTERVIEW

インタビュー

2023.03.17

VALUE〜180年続く事業を自分たちの手で未来につなげる

2022年に創業180周年を迎える株式会社シマムラは、現在オリーブ化粧品や食用オリーブオイルを中心に製造・販売を行っています。1842年(江戸時代・天保13年)に紀州和歌山にて髪油や髭附け油を扱う油商として創業し、明治時代まで「紀州びん附」として全国で親しまれていたほど。1919年(大正9年)に日本初の民間オリーブ農園を香川県の小豆島に開設したご縁から、現在に至るまでオリーブの製品を展開しています。オリーブオイルは人類最古のオイルとも言われ、オリーブの持つ力を最大限に活かす製品づくりを続けています。


今回、株式会社シマムラがなぜVALUEに参加したのか、またVALUEでどんな気付きを得ることができたのか、坂野和香さんにお話を伺いました。

家族が経営する事業に、自分も貢献したい

――VALUEプロジェクトに応募したきっかけについて教えてください。

坂野さん:純粋に面白そうだと興味を持って、昨年7月に開催された中川政七さんの「すべてはビジョンからはじまる」という講演会へ参加したのがきっかけです。実は、講演会自体がVALUEというプロジェクトのキックオフイベントだったことを参加して初めて知りました。和歌山県が主催している安心感と、外部の方々と協働して事業を開発できる取り組みの面白さに惹かれました。その背景には、弊社の状況もありました。創業180年の歴史がありますが、近年は既存事業の先細りを懸念する声が社内から挙がっていました。弊社の代表は私の父であり、姉や叔母も勤めています。近い距離感で顔を合わせる間柄だったこともあり、そんな会社の状況を聞き、私自身が会社へ貢献したい気持ちや家族の力になりたい気持ちが高まり昨年4月に入社したばかりでした。入社後、新しいチャレンジや新しい視点が必要だと漠然と考えていた矢先にVALUEと出会いました。直感的に参加してみたい気持ちが強く湧き上がり、でもデザインやマーケティングなど右も左もわからない私が参加したいと思っても、そもそも相手にしてもらえるか分からない不安も同時にありました。

前職は教育関係の仕事で、社内業務に関してもこれから一から学ばないといけない立場でした。また私は会社に欠員が出て入社した経緯ではないため、社内での役割を自ら模索していました。自分自身の勉強のためにブランディングで成功されている中川政七さんの講演へ参加し、VALUEの全容を知ったものの、これまで経験がないことにチャレンジしないといけない。思い切って、会場にいた事務局の方へ声をかけてみたら、後押ししてくださいました。踏み出したいけど、本当に私にできるかわからない。そんな五分五分の気持ちでキックオフイベントを後にしました。帰宅して、会社や家族の状況への理解が深い夫に相談したところ「こんな機会は絶対にない。やるべきだし、プレゼンも大丈夫」と励ましてもらい気持ちが軽くなったことで、やってみようと決断することができました。その後、VALUEへの参加に共感してくれそうな専務の叔母と姉に相談をしました。早々に合意を得て、デザイナーマッチング会のピッチプレゼンに向けて準備をすることが決まりました。

自分の中の「Why?」にひたすら向き合う時間

――デザイナーマッチング会を経て選考を通過するまで、どんなプロセスでしたか。

坂野さん:私はこれまで人前でプレゼンをした経験があまりなく、すぐにプレゼンの資料作りに取り掛かりました。姉に資料作りを相談したり、専務や他の社員にもプレゼンの練習に付き合ってもらったりと、周囲からアドバイスをもらいブラッシュアップすることを繰り返しました。内容を考える際に、私自身の「なぜVALUEプロジェクトに参加したいのか」という思いに時間をかけて向き合って準備をしました。当時私は会社に飛び込んだばかりで、私にしか担うことができない業務はほぼありませんでした。だからこそVALUEで一生懸命に取り組み、新しいことを生み出すところまでやりたい。また会社から先行投資でやらせてもらっているという自覚もあったので、成果を出したいと思っていました。
当日は、本気で参加したいことを熱量高く伝えられるように意識し、その後の個別セッションで「シマムラさんから熱意が伝わってきました」と言っていただけました。また他社さんのプレゼンを聴く機会も得られとても勉強になりましたし、和歌山県でゴールは違えど同じようにVALUEにかける思いに触れて励まされました。プレゼン後のブースセッション(個別セッション)に備えて、専務である叔母や姉にも参加してもらい、チームで臨みました。まだ会社全般の知識や経験がなかったため、私1人では対応できないこともわかっていました。会社のことをよく理解している社員に関わってもらうチーム体制をとることによってVALUEを進めることができました。プレゼンから数週間後にワークショップに参加できることがわかり、同席してもらった叔母と姉にも伝えて「手応えがあったもんね!」と喜び合い、最初の大きなハードルをクリアできたことで達成感がありました。

事業の本質を考える日々は、学びと刺激の連続

――全6回のワークショップ・ハンズオンでは、どんなことを実施しましたか。

坂野さん:9月から11月まで全6回のワークショップに参加することが決まり、シマムラチームの編成を変えて、社員2名をチームに迎えました。役員でもあり社歴も長く製造を熟知している社員と、2年前に入社し自ら手を挙げてくれた事務担当の社員と私の合計3名です。
第一回目のワークショップは、初めてチームメンバーが発表される日でした。今後、数ヶ月に渡ってシマムラチームとして一緒に協働するデザイナー2名とビジネスパーソン1名のみなさんとお互いのことを知る時間でした。さまざまなワークを通して相互理解を進めていきました。みなさんとフラットな対話を重ねる中で気づきも多かったです。私はこれまでデザイナーさんとの接点もなかったため、とても新鮮でした。またデザイナーさんと一括りにするのではなく、それぞれに強みや専門領域や分野があることも知りました。弊社のような企業の場合、社内の少ない人数で議論することが普段は多く、異業種で活躍されているみなさんの視点にハッと気づかされることが本当に多かったですね。シマムラのことについて、ずっと真剣に考え続けてくださる3名の存在を考えると、本当に有難いことだとつくづく感じます。第一回目はみなさんと良い関係を築きたい気持ちが一番大きかったですね。

第二回目はブランドビジョンを作るワークショップでした。どんなキーワードが相応しいか、どのようにビジョンとして盛り込んでいくべきかなど、話し合いを重ねて、ひとつひとつの言葉に対して真剣に向き合いました。たとえば「毎日」がいいのか、「日々」がいいのか、「生活」がいいのか?というレベルで、なぜこの言葉を選ぶのかをしっかりと追求することを学びました。本質的に考えることがすごく新鮮だったし大変だけどそれを上回る面白さがありました。内側から自分の会社を見ているのと、外側から見ているのは視点が違います。チームのみなさんは多様な異なる視点を提供してくれました。例えば、言葉を「文字で見る」と「音で聞く」とではニュアンスが違うのではというご意見を聞き、はっとさせられました。社内だとすぐに議論が収束しそうな場面でも、「もう一度、考えよう」と異なる視点から議論をいつも活性化してくださいました。
第三回目は自社の強みを洗い出すワークショップでした。「新規事業のアイデアをチームで100個出してみよう」と、短い時間で一人20個のアイデアを出しました。ターゲット、ペルソナ、行動観察など、どのワークも新鮮で学びでした。何より自社をとことん考えられる限りのことを考えることが本当に面白くて。初めてのチャレンジや学びが、純粋に楽しいと思えました。他のチームが隣にいたり、一緒にテーブルを囲んでくださってサポートしてくれるチームのみなさんの存在があったり。オープンな場所で、みんなで一緒にやっている感覚が醸成されたので、より前に進んでいけるムードがありました。他のチームの様子や情報が入ってきて、いろんなことを俯瞰できる仕組みを作ってくださったので、刺激がいっぱい、学びがいっぱいでした。普段の慣れた場所で仕事をしているときと、全く違う時間が流れていましたね。

自分たちの価値を問い続けるための大切な視点

――ワークショップ・ハンズオンを終えて、気づきや学びはありましたか。

坂野さん:振り返ると、この二ヶ月間でチャレンジしたことがたくさんありました。自社の強みや価値に対して自分たちなりの答えを見つけないと、ビジョンづくりにしても新規事業にしても、先に進めない気がしていました。しかし私たちは、この自社の強みや価値を見つけ出す作業にとても苦悩しました。180年の歴史の紐解きを社長や専務にヒアリングをしたり、過去の資料を調べたりするけれどもなかなか見つからない。じゃあ、次はお客様の声を集めようと店頭アンケートとインタビューを実施。弊社の商品を選んでリピートしている理由を尋ねたり、過去の顧客アンケートの見直しもしてみたりして重要なキーワードが無いか探しました。時間をかけてコツコツやらないといけない作業を必死で毎週繰り返していきました。それでも次のワークショップで「それは価値とはいえないかも」とアドバイスをもらって、別の角度からやり直すこともありました。
ワークショップからハンズオン期間までを振り返り、苦しく感じたこともいろいろありました。でも小さな迷いや不安を遠慮なく発信させてもらえる環境と仲間のおかげで、長く立ち留まらず、小さくでも進み続けることができました。その中で、一度決めたことを考え直すことは悪くないし、何か一つのことに対して結論が出なくても先に進んでも大丈夫。階段をのぼったりおりたりするからこそ、より本質に近づいていけることを教えていただきました。

徹底した顧客視点で考え、事実を積み重ねることで価値を確信していく

――VALUEを振り返って、いま感じていることは何ですか。

坂野さん:約半年という長期間に渡り、近い距離感かつ濃密な時間をチームのみなさんやアドバイザーの方と共に過ごし、社外の方々の考えや姿勢に触れ続ける環境はこれまでにない貴重な経験でした。触れ続けることで、いつの間にかそれらが自分の内部に入り込んでいく感覚がありました。最初は講義や議論についていくのに必死で受け身でしたが、長期的な取り組みであったからこそ、無理せずに学んだことを自然に体得していけたのだと思います。
VALUEで一貫して受けたメッセージは、「徹底した顧客視点で考えること」です。その気づきから、私たちは商品やサービスを届ける相手のことを想像するようになりました。店頭でのお客さまとの会話から何かヒントがないか。「いつ頃から使っていますか」「使い心地はどうですか」と価値をどう感じてくださっているかを日頃から聞くようになりました。商品はモノではなくて、誰かにとっての価値であること。ひとつひとつの業務の中でも意識が変わってきたと思います。また何事も事実と根拠を積み重ねていくことが大切だということもVALUEで学んだことです。そのためには深い洞察力もいるし、本質を見極めていく必要がある。個人の解釈や憶測だけで判断すると方向性を見誤ってしまう危険性があるため、自分でちゃんと足を運んで事実を取りに行く姿勢が常に必要だと学びました。
その他にも、多様な視点を入れるために日頃から社外の方々と繋がりオープンなコミュニケーションをすることの大切さ。アイデア出しをするときや、議論を深めるときはボードに描くなど可視化することでより良い成果が得られることも学びました。万が一、自分自身で抱え込みそうになったら、周囲に小さく相談することや、まずはスモールステップを踏むことも大事なこと。VALUEで多くのことを学ぶとともに、前を向いて自分たちの力で進むためのきっかけを与えていただいたことにとても感謝しています。

インタビュイー

坂野 和香

株式会社シマムラ 和歌山市出身。広島大学教育学部卒業後、和歌山YMCAに入職。通信制高校事業に11年間携わり、多様な特性をもつ高校生を支援。2022年4月、家業である株式会社シマムラに入社。入社3カ月後にVALUEのキックオフイベントに参加し、社内で新規プロジェクトの旗振り役を担う。また、フラットでオープンな組織作りを目指している。現在、5歳と2歳の娘の育児中であり、仕事後は毎日公園に立ち寄り一緒に遊ぶ時間を大切にしている。