INTERVIEW

インタビュー

2024.04.02

VALUE 〜アイディアの「やり直し」があっても、前に進む方法〜

株式会社ツネダは和歌山市内に事務所・工場を構える内装ドア・クローゼットドア、建具の製作・取付を行うものづくりの会社です。代表取締役の常田幸司さんは以前にも新商品開発に取り組んだ経験があったそうですが、多くの課題を感じていたそうです。そんな中、今回初めてVALUEに参加した常田さんに、どのようにこの機会を活用し新商品開発を行ったのか、その道のりを伺いました。

VALUEへの参加は、突破口を見つけるための一歩

――― これまでも新商品開発の取り組みを社内で行っていたのですか?

常田さん:自分の頭の中では、新商品開発について考えていました。既存のお客様と会話をしてヒントを探したり、意見を聞いてみたり。ただ、既存のビジネスモデルからは脱却できずにいたので悩んでいました。自分たちだけで進めていくことは難しいと感じていたので、外部の新商品開発を支援してくれるサポート会社さんと一緒に取り組んだこともありました。

――― 商品開発には積極的に取り組んでいたのですね。

常田さん:その時は新しいドアを作りたいと思っていたので、意見を出してくれるデザイナーさんや設計士さんなど、見識を持っている人と面談をしながら進めていました。しかし、結局形にならずに終わってしまいました。その時に“売ることができる商品”を形にすることは本当に難しいと実感しました。

――― VALUEを知ったきっかけを教えてください。

常田さん:形にならなかった後も、利益率の高い新商品開発を行いたいと思っていたのですが、普段の仕事も忙しいし、何か突破口は無いかと思っていました。そこに、いつもお世話になっている会計事務所さんからVALUEについてメールを貰ったことが、知るきっかけです。ただ、その時はVALUEに出るか出ないかはまだ迷っていて、3回開かれたセミナーには2回目から参加しました。

――― 参加の決め手は何だったのでしょうか?

常田さん:セミナーに参加していた時も実は迷っていたんです。しかし、セミナーでの杉谷さん(Mitemo株式会社 シニアディレクター)の話がとても分かりやすく、この人が進めるプロジェクトなら一緒にやってみたいと思ったんです。

セミナーも単純に話を聞くだけではなく、Zoomのチャット機能を使いながら参加者を巻き込みながら進めてくれました。セミナーには和歌山県内でも有名な企業さんも参加されていらっしゃって、「ウチのような小さな会社も参加してもいいんだろうか…」と思っていましたが、杉谷さんが「ツネダさんはドアを作っている会社で…」と話を積極的に振りながらセミナーを進めてくれていました。セミナーを通じて、自分の環境を変えるために飛び込んでみようと思えました。

プロジェクトの結果は「やり直し」?

―――VALUEのプロジェクトの中で、新商品のアイディア出しのために取り組んだことを教えてください。

常田さん:既存ビジョンから新しい事業の文脈を見つけることが難しく、プロジェクトの中で行った「強制発想法」というものから課題やニーズを見つけていきました。強制発想法は「いつ、どこで、だれが、どういうことをする」をとにかく付箋に書き出して、その組み合わせからアイディアを見つけていくという方法です。無限の組み合わせが生まれるので、自由に発想でき、とても面白かったです。

――― 強制発想法ではどんなアイディアが出たのでしょうか?

常田さん:当初「兄弟が」「家の中で」「喧嘩したときでも」「壊れないドア」というキーワードを組み合わせて「兄弟喧嘩で壊れない頑丈なもの、すぐに交換できるもの」とういうアイディアが出ていました。他にも突拍子もないアイディアが生まれたりしていました…。

なかなかアイディアがうまくまとまらず、強制発想法で出てきた文脈の課題・ニーズがありそうなところとして「リノベーション」というキーワードに着目しました。そのキーワードをヒントに、移住者向けや外国人向けにリノベーションをしている現場を見に行ったり、設計・施工している人の話を聞きに行ったりもしました。

――― 中間発表では「模様替えができるドア」というアイディアが出ていましたね。

常田さん:結論から言うと中間発表でプロトタイプまで制作した「模様替えができるドア」のアイディアは一旦やめて、新しいアイディアに方向転換しました。強制発想法では形になりにくいアイディアが生まれたり、リノベーションの現場で行った観察がうまくできなかったり…。「ワークショップ中にできることをやらなければ」という焦りからも、自分がもともと持っていた「模様替えドア」というアイディアを形にしました。

これは文字通り、ドアそのものを交換するのではなく、気分や傷などによってドアの化粧板を変えるというアイディアです。プロトタイプではドアの20分の1のサイズで、ドアの化粧板を変更したものを作ってみましたが、中間発表の前に「これはやり直そう」思いました。

――― アイディアを再度1から考えることも大変なように感じますが、それでもやり直そうと思った理由はなんだったのでしょうか?

常田さん:チームとして合意が取れていなかったというのが1番の理由ですね。チームみんなで「これを作っていこう!」という雰囲気ではなかったです。VALUEを通じてビジネスパーソンやデザイナーの方、他の参加企業の方と繋がることができていたのにもかかわらず、自分一人で決めてしまったという感覚がありました。

模様替えドアのアイディアも、他のチームの参加企業の方たちにヒアリングをし、もし進めていくなら「何が足りないか」などを議論していたので、この路線で進めようと思えば進めることはできました。しかし、せっかくVALUEの場を通じてチームとして考える機会があるのに、チームとしての良い流れで開発ができていないと思い、やり直しを決めました。

――― チームに入っていたデザイナーやビジネスパーソンとはどのような関わり方をしましたか?

常田さん:それぞれ関わり方のスタンスは違いましたが、いつも俯瞰して物事を見てくれていました。方向性を変えると決めた時もすんなり受け入れてくれたり、時には「なんでそう思うのか?」と疑問を投げかけ、白熱したやり取りをしたりしたこともありました。

アイディアを再検討してもまた同じ問題にあたって途中でストップしてしまうのでは?という不安もありました。外部の人にお願いすることはあっても、外部の人と「一緒にやる」という経験はなかったので、難しさはありました。それでも新しいアイディアのプロトタイプができた時は、大阪から和歌山に見に来てくれたりと、今でも繋がりをもっています。

――― チームでうまくプロジェクトを進められなかった理由は何だと感じますか?

常田さん:自分の中に「デザイン経営」という核がなかったからだと思います。そもそもデザイン経営というものに触れたのが初めてで、どうやって進めることが良いのか分かりませんでした。今でも「こうあるべき」と確固たるものはありません。なので、人から「こうなんじゃない?」と言われると「そうかも…」と思ってしまって、違和感を持っていても「否定するのも違うのかも?」と思ってしまいました。

今はプログラムが終わりハンズオン期間となり、アドバイザーの方が入っていただきながらではありますが、少しつづ自分たちで進めていけるスタイルに変化していると感じます。

再始動のヒントは過去のアイディア

――― 新しいアイディアはどのように構築していったのでしょうか?

常田さん:0から全く新しいことを考えたというよりかは、以前行った強制発想法から新しい事業の文脈を考えました。例えば「高齢者の方が」「高齢者施設で」「真冬に」「気持ちよく会話が弾む」から「快適に過ごせる環境を作ることができないか?」という文脈や、「労働者が」「会社で」「休憩時間に」「少しの時間を利用してリラックスする」から「無機質な環境でのリラックス空間を提供できないか?」などいろいろな文脈を社内で検討しました。

その中から「若い人が」「マンションの一室で」「夜に」「オンラインゲームやzoomをする」というキーワードから「隣部屋でも静かに過ごせる環境を提供する」というアイディアを発見しました。

中間発表の時には新しい方向性に切り替えることが決まっていたので、参加者からも意見を頂きました。オンライン会議をする際「隣の部屋でも声が聞こえてしまう」「意外と声を張って喋ってしまう」などの “オンライン会議あるある”を聞き、観察やインタビューではどんな人から話を聞くべきかなどヒントを頂きました。

――― 具体的には現在どんなアイディアを形にしているのでしょうか?

常田さん:現在「防音」と「押入れのリノベーション」をかけ合わせた、押入れサイズに作られた防音部屋を開発中です。これはリノベーションの現場を観察していた際にも、押入れの活用方法が他にもあるかもと思ったことがきっかけになりました。

さらに、私たちの会社では建具の製作から設置までを行っているので、防音室も製作から設置を一連の業務として検討することができ、事業としての発展性があるということにも気づきました。

――― アイディアを形にするためにどんなことを行いましたか?

常田さん:まずは騒音計を購入し、実際どんな音がどんな状況で聞こえているのかを調査しました。自分の家や従業員の家でも調べてみましたが、意外と音が漏れているということを数値化して把握をしていきました。

既存の防音素材を購入して実験なども行いました。実際には「5デシベル下がる」と書いてあった商材を使って計測すると、数値としては確かに下がりました。しかし、実際に体験してみると「壁全体から音が響いている感じは無くならない」という意見が出ており、 数値と感覚の違いを発見しました。

――― プロトタイプ制作後、商品化実現に向けて順調ですか?

常田さん:まだ実際に商品になるか細かいところを詰めている段階ではあります。実際に形を作ってみると、消防法など絶対に守らなければいけないハードルがあったり、この商品に合った素材が存在するかを探したりと、やらなければいけないことが沢山あります。

例えば試作品には窓がありませんでしたが、実際に部屋を作って見ると圧迫感があったり、狭い密室なので換気を取り付けなければいけなかったり。換気を取り付けると、次はどんな換気扇が良いのか?など次々と考えなければいけないことが生まれてきます。

――― アドバイザーからはどんな意見がありましたか?

常田さん:アドバイザーの方から「自分の出す音を防ぐ」「外(他人)からの音を防ぐ」「賃貸や宿泊施設のオーナーとして音を防ぐ」のどのアプローチで進めていくべきかを考えるべきだとアドバイスをもらいました。

また商品化を考える上でも、既存の防音室との比較も重要だと感じていました。アドバイザーからも「これまでにない全く新しい商品」というのはなかなかないので、既にある商品でも盲点となっている視点を見つけていこう、という意見を頂きました。

現在は競合他社の商品の金額や組み立てやすさなどの視点も踏まえて、自分たちが目指すべきところがどこなのかをさぐりながら商品を作っています。ブランディングの視点も踏まえ自分たちが作る意味を考えながら形にしていきたいと思います。



インタビュイー

株式会社ツネダ 代表取締役
常田幸司
1970年生まれ、和歌山市出身。大学卒業後、印刷メーカーの建材の販売会社で7年勤務の後、家業である株式会社ツネダに入社。2012年に父の後を受け代表取締役に就任。既存の商品だけでなく、より多くの巾広いお客様に喜んでいただける商品を開発しようと奮闘中。仕事が趣味になっている。