INTERVIEW

インタビュー

2024.04.30

VALUE 〜事業開発を通して新しい自分に出会う場〜

2022年創業、干し芋や地場産品を使用した菓子製造を行うシカオラリファーム株式会社。創業年数は浅いものの、代表の前西顕彰さんと前西志織さんは学生時代に起業し、幅広い事業を展開する実績を持っていました。そして10年前から農業事業に参入。“作らなかった野菜は無い”と言うほど農業へ積極的にチャレンジし、さらに干し芋などへの加工業に事業を展開。事業への意欲と行動力に溢れるお二人がVALUEに参加したことで得た変化についてお伺いしました。

農家にこそデザイン経営を

――― シカオラリファームでは現在干し芋の製造を行っているとのことですが、なぜ農業から加工食品製造へと事業発展したのでしょうか?

前西志織さん:私たちは野菜を育てる上で、土づくりにもこだわりを持ち自分たちの納得のできる野菜を生産してきました。しかし、そのこだわりを理解し購入される機会は少なく、価格にも反映しづらいと感じていました。

前西顕彰さん:農作物を作っていると傷がついていたり形が小さかったり、味は変わらないけれどどうしても捨てなければいけないものが出てきてしまいます。さらに、農業は天候に大きく左右される仕事でもあり、雨が降ると仕事ができないという状況下で従業員を安定的に雇うということができませんでした。そのため農作物の加工を取り入れることで、フードロス削減にも繋がり、通年雇用を生み出すことができると考えました。

――― 様々な野菜の中から「さつまいも」を選んだことにも理由があるのですか?

志織さん:まず自分たちが好きという理由があります。どんなことにもまず自分たちが楽しんでやる。そして、自分たちが欲しいと思うものを作るというところからスタートしています。また、さつまいもは貯蔵が効くということもメリットでした。

顕彰さん:和歌山県内でさつまいもを作っているところは他にもあるので『淡路島の玉ねぎ』のように、さつまいもを産地化して、和歌山県を盛り上げたいという思いもありました。

――― 現在どのような商品を販売しているのでしょうか?

志織さん:現在は『からちゃんシリーズ』として、さつまいもをスライスした干し芋、輪切りにした干し芋や、スティック状の干し芋を道の駅やスーパー・直売所などで販売しています。「自分たちが楽しいと思わなければ、お客様にも伝わらない」という思いでものづくりを行い、無添加にこだわり、安心安全を心がけてつくっています。

――― 自分たちのこだわりを具体的に形にしているのですね。

顕彰さん:工場では全工程を記録しています。HACCPの認証(Codex HACCの基準に基づいた衛生管理審査の認証)を今年度中に申請する準備をしています。金属検知器を導入するなど、生産から製造までを一貫している工場でここまで徹底して行っているところは少ないと思います。安全安心を謳って商品づくりをしていることにこだわりがあります。

志織さん:因果応報。悪いことをすると、必ず自分たちに返ってきます。安心できるものを提供するという誠実さがとても大切だと思って生産、製造しています。

――― 既存事業が着実に進んでいる中、VALUEに参加した理由とは何だったのでしょうか?

顕彰さん:初期の動機は補助金の獲得のためだけでした。デザイン経営を学ぶことで得られる補助金があったので、そのために参加したというところが正直なところです。

――― これまでデザイン経営を学んだことはありましたか?

顕彰さん:いいえ、デザイン経営自体を学んだことはありませんでした。私たちはこれまで起業し自営業をやっていたので、一般的なサラリーマンの経験がありません。自分たちで様々な事業を行ってきた経験を経て「次は一次産業をやってみたい」という想いから農業をはじめました。しかし農家になったからと言っていわゆる「農家思考」になってはいけないという意識が強かったです。

――― デザイン経営は農家であっても必要ということでしょうか?

顕彰さん:農家にこそ必要なことだと思います。他の事業でもそうですが、私たちはこの業界のことをよくわからなかったからこそ、規定概念にとらわれずアイディアを出し挑戦することができてきました。「自分に無いものを学ぶ」という機会は大切にした方がよいと感じています。しかもVALUEは無料で受けることができるので、気が緩みやすいのですが「時間が作れない」というのは言い訳でしかないと思うので、気を引き締めながら参加しました。

シカオラリファーム 前西志織さん

新規事業開発に向けて2回のリスタート

――― VALUEでの取り組みは大変でしたか?

志織さん:中間発表の手前までは新規事業として和歌山県に観光に来た人がお土産として買う干し芋を作るという文脈でアイディアを出していました。そのため観光地のお土産売り場の観察に行きましたが「今私たちがすすめているものは新規事業アイディアではなく既存事業の延長では?」となり、途中でアイディアのやり直しを決めました。既存事業もまだ始まって日が浅いので、どうしても新規事業ではなく既存事業の展開アイディアとなってしまっていました。

――― その後どのようにリスタートを行ったのでしょうか?

志織さん:強制発想法を用いて、その後「OLが仕事の休憩中に話のきっかけになるコミュニケーションツール」として干し芋を作るアイディアが生まれました。まわりの企業にもご協力いただきオフィスの見学にも行きました。

――― お土産売り場や会社のオフィスなどすごく細かく観察をされていますね。

志織さん:はい、どんなことにニーズがあるのかを観察したり、お菓子を食べる理由や、人にお菓子をあげる理由は何かなどを聞いたり。仮説を立てながら観察を行い、そこから課題の定義とアイディア出しを行いました。

具体的には持ち運びができるようなチャック付きの袋のアイディアや、あげやすい個包装のアイディア。また、机の上でも違和感の無いお菓子にするためにはどうすればいいだろうか?など具体的に考えていきました。

――― ハンズオン期間に入り、このアイディアもやめてリスタートをしたと伺いましたが、それはなぜでしょうか?

志織さん:大きくは「なぜそれを私たちがつくるのか?」という問いに応えることができていなかったからだと思います。講師の方からも「それは干し芋である必要はあるの?」「他の商材でも同じアイディアが作れてしまうのでは?」と聞かれた時、回答に詰まってしまいました。悩みに直面し、立ち止まり、チーム内で本音をぶつけながら2回目のリスタートを決めました。

顕彰さん:ビジネスパーソンやデザイナーの方含めチームで打ち解けて本音を話せるようになったのはプロジェクトで話し合いをする4〜5回目くらいからでしたね。それまでは自分たちよりも年下ということもあり、遠慮して話せないという時間もありました。

――― VALUEの中に出てきた課題は難しかったですか?

顕彰さん:自分にとっては強制発想法が難しかったです。自分が変わったことを言いがちな人間なので、ビジネスパーソンやデザイナーと噛み合わなかったり、意見がまとまらなかったり…。ただ、VALUEには自分に無いものを学びに来ているので、既存事業ではなく別の切り口を見つけられるように考えました。

そこで、途中までは自分が全面に出て進行していたのですが、みんなが自分の意見につられてしまわないように3歩くらい下がって俯瞰して全体を見る役割に変えてみようと思いました。一人の意見で進むことは楽かもしれませんが、それは他の参加者にとっても学びがないと思いました。

――― ハンズオン期間にどの様なアイディアが新たに出たのでしょうか?

顕彰さん:最初にハンズオン支援期間にどうビジネスパーソンに関わっていただくかを話し合いました。みなさんから「VALUEが終わったあとも関わりたい」と言ってくださり、全員のモチベーションのためにも「とにかく販売まで行いたい」と考えていました。

志織さん:1度目のリスタートで出た「OL仕事の休憩中に話のきっかけになるコミュニケーションツール」は商品化するところが難しく、新たに「アレルギーのある子どもとのコミュニケーションツール」というアイディアを形にさせていくことになりました。

観察の時にも出てきた内容だったのですが、「アレルギーがあって親子で同じものを食べられない」という話を聞きました。その観察から親と子どもが同じものを食べることでコミュニケーションや笑顔が生まれるのは良いじゃないかと進めることになりました。

干し芋をコミュニケーションツールに

――― 干し芋をコミュケーションツールとして捉えていることは特徴的な点だと感じましたが、なぜそのような発想ができたのでしょうか?

志織さん:干し芋を通じて人を観察すると、一人で食べて終わるということが無いということに気づきがありました。「これ美味しいよ」と人と共有することが多い食べ物だということがこの商品がもつ特徴的なことだと思ったんです。

顕彰さん:だからこそ色々なシーンが想定できました。山登りの時にお菓子を交換したり、自分ではなく子どものために買って帰ったり。観察を通じて様々なコミュニケーションのシーンが浮かびました。

――― 現在、具体的にはどのような商品を想定しているのでしょうか?

顕彰さん:現在は干し芋に加えて「干し芋せんべい」というものを作っています。実は干し芋ですら作る工程でフードロスが出てしまうのですが、この商品を作ることによって、ほとんど捨てるところがない状態にまでなりました。

志織さん:ターゲット分析も今まで以上に細かくやっていて、色々なターゲットを想定できるよう、スプレットシートに細分化して書き出しを行っています。どういう人に届けるのか?その人たちの困りごとは何か?どんな価値観を持っている人なのか?など考えながら、ビジネスプランシートというものに書き起こしている段階です。

――― ターゲットのニーズも細かく想定できるように準備しているのですね。

志織さん:はい、「お客さんが本当に望むものは何だろう?」と常に考えています。干し芋は、砂糖も添加物も何も入っていないアレルギーフリーのおやつなので、今はアレルギーで困っている方にも手に取ってもらえるよう、アレルギー表示の記載をどうするかを検討してデザインに落とし込んでいます。

顕彰さん:2024年3月頃の製品化を目指してリプロダクトを重ねています。私たちはこれまでデザインにこだわったり、“完成”ということに囚われて無駄に時間がかかっていましたが、VALUEに参加して「とりあえず作ってみることが大事」ということを学びました。今はとにかく作って反応を見てみることに注力しています。

――― 実際にアウトプットすることで何か発見はありましたか?

志織さん:既存の商品のパッケージデザインを2種類用意してみたり、ポップを変えてみたりと色々と比較しながら検討しています。ターゲットに向けて『子どものための』スティック干し芋と書くだけでこれまでとはお客さんの捉え方も変わっていることがわかりました。

顕彰さん:他にも1商品あたりの内容量と値段設定を変えてみたりすると、価格帯は変わっていないのにもかかわらず売上に変化がありました。

志織さん:売り場の作り方を自由にさせていただける道の駅さんのご協力もありながら、お客様の反応を見て、検討し、さらに変化させていく。その基本となる行動観察の癖がついたと思います。

――― VALUEに参加してみた率直な感想を教えて下さい。

顕彰さん:自分にとっては修行のような時間でした。強制的に物事を考えることがなかったのでムチを打たれているような感覚でした。

自分たちの価値や強みをきちんと分かっていない経営者が多いかもしれませんが、それは自分たちが当たり前にやっていることを改めて振り返る機会がないからだと思います。私も自社の強みを認識し、自分たちについて知ることができた機会になったと思います。

志織さん:「学びたい」という熱意がある人にとってはVALUEの機会はとても良いと思いました。自分たち自身の事業への姿勢が変わると思います。

顕彰さん:新たな自分を見つけられるような感覚があります。VALUEは「自分に自信がある企業の方」に参加していただくのが良いのではないかと思いました。芯があり、我流を貫いている人にこそ、自分を変化させる修行になると思います。


インタビュイー

シカオラリファーム株式会社 代表取締役
前西顕彰

大学在学中に人材派遣会社を設立。その後、オリジナル缶コーヒー企画販売、カフェ、八百屋、ベーカリー、アパレル等を展開。 2015年和歌山県紀美野町にて新規就農。2023年6次産業プロジェクトとして、海南市に加工場を建設。干し芋や地場産品を使用した菓子製造を行う。デュアルライフ農家として、新たなライフスタイルを実践中。