INTERVIEW

インタビュー

2024.04.08

VALUE 〜設計工務店が「建物」の外で発想するDANRAN〜

株式会社浅井良工務店は創業50年の自社大工を有した設計工務店です。今回の2期目となるVALUEに参加した、代表取締役の中口勝之さん、営業尾崎佑輔さん、営業/設計の知念久珠さんからお話を伺いました。VALUEを通じて生まれた新規事業商品の、開発までの道のりとこれからの展望や課題についてお話いただきました。

強みから見出す「本当に自分たちが生み出したいもの」

――― VALUE参加のきっかけを教えてください。

中口さん:現在会社の中では新築・リフォーム・リノベーション・不動産の事業を行っていますが、近年木製品を加工するCNCルーター(Computer Numerical Router。コンピューターによる数値制御された木材の切断機。) を取り入れた事業を検討しています。新しい事業をどう発展させていくのが良いか考えていたところ、和歌山県の方にこのプロジェクトを教えていただき、参加してみようと思いました。

――― これまでにもデザイン経営などについて学ぶ機会はあったのでしょうか?

中口さん:これまでもデザイン経営に関して本で勉強したことはあります。しかし、VALUEのように実践を交えながら学ぶことはありませんでした。「商品を分解する」というワークをこれまでやったことがなかったので、商品の強みやお客様の課題を発見していくというステップは新鮮でした。

――― VALUEの中でインタビューを通じた「強みの分解と再発見」や「Visionの整理」がありましたが、そこではどんな発見がありましたか?

知念さん:私たちは「建築を通して豊かさを提供するという」というビジョンを掲げ、快適で安心できる健康な家づくりやクラフトマンシップを大切にしています。そこまでを整理した上で、その中でも「家族が“だんらん”できる家づくり」を行っているということに気づきました。

例えば、浅井良工務店が設計する住宅では吹き抜けを設ける場合があるのですが、これは、個々の部屋にいても家族がひとつの空間でだんらんしているようにという想いが込められているからです。快適な家づくりをすることで、家族がだんらんできる時間を増やしていくことを大切にしていきたいと思いました。この「だんらん(DANRAN)」をテーマに新規事業設計を行っていこうと決まりました。

――― 「だんらんは建物の中にこだわらなくても良いのではないか?」という問いを立てていましたが、そう思うきっかけは何だったのでしょうか?

尾崎さん:そう思ったきっかけは浅井良工務店が開催した50周年感謝祭でした。このイベントでは公園で木工加工のワークショップを行ったり、キッチンカーを呼んだり、人が集うことを目的とした内容を企画しました。そこで、飲食店が出店するという理由でCNCルーターを用いて作った椅子やテーブルを置いてみたところ、様々な業者さんから意外な反応がありました。単純に飲食ができる休憩スペースとしてだけでなく、知らない人同士が交流していたり、家族のだんらんの様子が伺えたことが良かったという言葉をもらいました。

知念さん:だんらんを生み出す「建物」を作ろうとすると、規模がとても大きくなってしまうし、時間もかかってしまいます。どうしたら建物を建てずに、だんらんを作ることができるか悩んでいましたが、このイベントがヒントになりました。

和歌山を盛り上げようと頑張っているショップさんや、和歌山県で出会いを探している移住者の方たちや、和歌山に遊びに来ている観光者を巻き込んでいくことで、その方々が集まる場作り=だんらんづくりにつながるではないかと考えました。

尾崎さん:だんらんが家族を超えて、外に繋がっているということに気づけたことは大きな発見だったと思います。

徹底した観察から、ニーズと課題を見つける

――― ニーズ発見フェーズでのインタビューはどのような方を対象としたのでしょうか?

尾崎さん:一緒にチームとして入ってくれていたビジネスパーソンの方から紹介いただいた会社さんやイベント、これまでお世話になっていた会社さんなどから話を聞きました。

知念さん:具体的にはイベントの様子を見に行ったり、イベントに什器を貸し出している企業さんや飲食店さんへインタビューを行ったりしました。

――― そこではどんなニーズや課題が見えてきたいのでしょうか?

知念さん:例えば飲食店の方も「座って食べてもらえる場所がほしい」という要望をもっていることや、物販を行う方であれば「屋外イベントでテントを張ると、入りにくい雰囲気が出てしまう」などの課題があることもわかりました。実際にイベントを見たり、話を聞いたりすることでとても細かいニーズや課題を把握することができました。

――― それらの観察を通じて、どのようなアイディアが生まれたのでしょうか?

知念さん:まずは折りたたみ椅子、スタンドテーブル、ガチャガチャ、テントを含んだイベント什器を考えました。人が食事をしながら集える空間を生み出すために、簡単に持ち運び・設置がでる折りたたみの椅子やテーブルというアイディアが生まれ、イベントテントと什器は店舗の世界観を出すためにセットであったほうがいいという声を元にアイディアを形にしました。

――― これらのアイディアはチーム内ですぐに出てきたのでしょうか?

尾崎さん:行動観察から、課題把握を丁寧にやったことで、「こういうものがあると良いんじゃないか?」とアイディアはスムーズに出てきたような気がします。

知念さん:アイディアが生まれ、作った後は、実際にイベントに出店する側としてテストを行いました。実際に運び、組み立てるという工程も自分たちで経験することで改善アイディアも出し合いました。

――― 実際にプロトタイプを制作し、テストしてみた後はどうでしたか?

中口さん:実際に試作し、使用した後、色々な人から感想を聞いてみると改善箇所が沢山あることが見えてきました。商品が重くて使いにくかったり、パーツが多くて組み立てにくかったり…。正直まだどうやって改善すればよいかわかっていない課題もあります。

知念さん:細かい課題としては什器が運びにくい形をしていたり、一人では組み立てられなかったり。他にもガチャガチャの中身(景品)をどうしたほうが良いのかなど、アイディアを出す必要があるものがいくつかありました。まだプロトタイプを作れていないものもあるので、実物をまず作ってみてテストしてみたいと思っています。

――― テスト段階では他にどんな事を実践しましたか?

知念さん:他のイベントではクリスマスツリーをつくるワークショップも実施しました。今までは「ただものをつくる機会」を提供していただけでしたが、今回は「お客様同士のつながり」を意識して机の配置を考えたり、集まれる場所を作ったりなど工夫をしました。ここでのテストを通じて、どうやったら人が集まってくれるのか?どうやったら会話が生まれるのか?を意識し、考え、試し、観察していきました。

――― プロトタイプ制作からテストまで多くの人の観察を行ったのですね。

中口さん:実は以前にもCNCルーターを使った商品を自分たちだけで作ってみたのですが、どうしても近しい人にしか話を聞けなかったので、独りよがりな商品になっていたように感じます。商品を企画し、商品化し、実践していくというのは家づくりでも行われるステップなので、会社の中で社内リソースが無いということではなかったんです。ただ、チームで学び・考え、改善していくという経験がありませんでした。インタビューによってニーズや商品の改善ポイントを発見できることは新鮮でした。

外とつながり、中に浸透させる

――― VALUEのワークショップやプログラムの中で印象に残っているものはありますか?

尾崎さん:最初のチームビルディングのワークでレゴを使ったワークショップがとても面白かったです。人によって感じ方も、表現の仕方も、注目するポイントも違うんだということを改めて実感できた気がします。

中口さん:Miroなどのツールを使って「ビジュアルを共有する」ということも、これまではしたことがなかったので、慣れるのは大変でしたが面白かったです。これまで社内でも言葉を使って意識の共有をしていましたが、「こんなイメージ」という共有の仕方もあるのかと思いました。


――― ビジネスパーソンやデザイナーが参加していたことによって良かったことはありますか?

尾崎さん:VALUEを通じて通常の業務では出会うことがなかった人と繋がりができたことがとても大きかったと思います。ビジネスパーソンの方々が、新規事業アイディアの枠を超えて、知らない情報を教えてくれました。和歌山県の中でも面白い取り組みをしている企業を紹介して頂いた時も、「これから先ワクワクするような取り組みが生まれそう」と感じました。

知念さん:ビジネスパーソンの方々からは「社会人としてこうしたほうがいいよ」という、働く人として初歩的なアドバイスももらいました。(笑)

中口さん:(知念さんが)新卒1年目ということもあり、ビジネスパーソンの方やデザイナーさんには社会人としての知見も共有していただきましたね。

知念さん:他にもおすすめの本を教えてもらったり、デザインのことについて教えてもらったりと多くの刺激を受けました。

尾崎さん:インタビューや観察に協力いただける企業さんと繋げて頂いたこともとても良かったと思います。和歌山県は県外に出て行ってしまう人が多いのですが、魅力に溢れ和歌山を盛り上げて行きたいと思っている企業が沢山あることにも気づくことができました。繋がりを求める人や、もっと和歌山を盛り上げていきたいとおもうアグレッシブな人にとってもVALUEは良い機会になると思います。

――― VALUEを通して、新たな課題などは見つかりましたか?

中口さん:単発のプロジェクトではなく、会社の新規事業としてやっていくという意味で、社内に向けてこれまでの活動を共有し、社員全員で同じベクトルに向かって進もうとすることがとても難しいと感じています。

これまでVALUEには3人で参加してきましたが、これから会社の事業として進めていくためには社員を巻き込んでいくかがとても大切です。社内ではそれぞれがやっていることを共有する機会はあったり、個別に話をしたりしていますが、これまでのプロセスを知らない人にとっては、「すぐに売上に繋がらないこと」=「リソースを割くべきではないこと」と見られてしまう場合もあります。

――― 社員のみなさんに浸透していくためにどのようなことをしていますか?

中口さん:VALUEで繋がったアドバイザーの方と、新しい取り組みを社内の中で実践しようと準備をしています。社内の既存取り組みの一貫として進めやすいプロジェクトを、社員を巻き込みながら行っています。新規事業は今までに無いものをどう作っていくかを考えるものです。CNCルーターは将来的には建築にも使っていきたいと考えている技術なので、「今そのための布石を打っている」ということを伝えるために社員に浸透していく活動も合わせて行っていきたいと思います。

――― これからの展望を教えてください。

中口さん:今は商品として本格的に作っていく段階です。試作を繰り返しながら2024年3月頃の完成を目指しています。商品の具体的な改善に加えて、販売・マーケティングも並行して検討をしています。

VALUEに参加し、新規事業について考えることで既存事業の見直しも行えるようになったと思います。自分達の知識や技術を建築だけではなく、「ものづくり」で課題解決へ昇華できればと、期待しています。



インタビュイー

株式会社浅井良工務店
(右から)代表取締役 中口勝之 営業/設計 知念久珠 営業 尾崎佑輔

和歌山で半世紀以上の歴史を誇る当社は、設立当初は施工専門の小規模な会社としてスタートしました。2007年には自社設計および自社施工にビジネスモデルを大きく転換しました。現在では、新築住宅の建設、リノベーション、リフォーム事業、不動産事業、さらに木造非住宅ブランド「TimberWorks」と木製品ブランド「glowm」の展開など、事業領域を拡大しています。地域社会に深く根ざし、時代の変化に適応しながら、引き続き成長を遂げていくことを目指しています。